浜松町でつかまえて

ちゃんとまわしてね
http://xxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxx.htm


携帯のメールは友達からだった。チェーンメールだ。僕はこういったメールは最後まで読まないし、URLが貼ってあっても、飛ばない。だってこんなもん、大概が面白くもなんともなくて、最後まで読んだことを後悔させられるんだ。これほど簡単に人の気分を滅入らせてくれるものって他にないよ。それまでどんなに楽しいことをしてたとしても、これ一発でおじゃんだ。まったく優れた発明だよ、チェーンメールってやつは。


ところがだよ、そのとき僕は会社帰りで、駅のホームで電車を待っていたんだけど、全然電車が来なくて、アナウンスによると2つくらい前の駅で人がホームに落ちたとかどうとかで、うんざりもしてたし、同時に退屈でもあったんだよね。だからね、普段だったら、即削除だよ。何がってこんなメールはね。でも、退屈なときの僕ってのは、普段だったら考えもつかないようなことをしてしまうんだ。で、僕が何をしたかっていうと、つまり、そのメールに貼ってあったURLにアクセスしちまったんだよね。


表示されたページを見て、僕はすぐに自分がしたことの愚かさに気がついたけど、もう遅かったね。そこには黒い背景に赤い字で、なんだか書いてあったけど、まともに読む気にはなれなかったよ。まったく乗り気じゃなかったね、あのときの僕は。まあざっとは見たんだが、なんだか中国の、達磨がどうしたとか、そんな感じのことが書いてあったよ。だからそう、怪談みたいなものか。違うか。まあいいやなんでも。その文がまた長くてさ、僕は途中で読むのを諦めて、ただ延々と画面をスクロールさせたけど、それでもなかなか話が終わらなくて、こんな調子じゃ、僕が死ぬまでに、この文の最後にたどりつくことができるのかと不安になったよ。


そしてやっと辿り着いた文章の最後には、案の定。このメールをね、4人にまわせって書いてあるんだ。まわさないと死ぬらしいよ、僕は。まったく馬鹿げてるし、とにかく腹が立ったね。なにより許せないのは、この糞メールを僕にまわした友達だよ。だから僕は、こいつにメールを返信したんだ。「死ね」ってさ。そしたら、それからしばらくして、またそいつからメールが来たんだ。


こわいよー


これには僕も参ったな。こいつときたら、跳んだ白痴じゃないか! 一体どういうつもりなんだろう? 僕はさっきのチェーンメールのことでもかなり気分が悪くなっていたし、何よりまだ電車が来ないんだよ! そう、もうかなりの時間、僕はホームに並んで電車を待つ列の一番先頭で、阿呆みたいにずっと突っ立っていたもんだから、つまり、相当苛立っていて、だから、反射的に返信してしまったんだ。「殺してみろよ」って。そしたらすぐに返事が来た。


なに、おこってんの?


いやあ、まったくふざけた野郎だよこいつは。僕は人に怒ってるって言われるのが一番嫌いなんだ。まさかこいつは、僕が何故怒っているのか、ほんとにわかっていないんだろうか? ああ、きっとそうなんだろう、ほんとどうしようもない。救いようがないよ。返信するのも馬鹿らしいから止めだ。もうどうでもよくなったよ。きっとこの低脳は、これから年老いて死ぬまでの間、自分の間抜けな携帯に来た糞メールを他人に転送しつづけるんだろうな。だったら好きにしたらいい。今後またこういうことがあっても、僕は黙ってメールを削除するだけだ。


ふいに駅のアナウンスが、遅れていた電車がまもなくホームに入ってくることを告げた。やっと来たよ! 散々待たせやがって、時計をみたら1時間以上経ってるじゃないか。それにしても最近、事故やなんかで電車が遅れることが多すぎやしないか? 一体どういうことなんだろう? ああもう、とにかく僕は、一刻も早く家に帰りたいんだと、電車が来る方向をじっと見ていたら、またメールが来た。また奴だ。


なに、おこってんの?


さっきとまったく同じ文面だなんて、馬鹿にするにもほどがあるじゃないか。再び怒りが込み上げてきて、僕は苛立ちを抑えきれず、小さく舌打ちをした。そこでやっと、電車がホームに滑り込んできた。そのときだよ、誰かが僕の背中を強く押したのは。