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休日だというのに仕事せねばならぬ運命を呪いつつ、かなり遅れて出社、午後3時。なんだタッキーしかいないじゃん。約束したのにやる気ねーなみんな。まーいいや。俺は自分の仕事終わらせればいいんだから。席について端末の電源を上げ、いやいやながら作業開始。
タッキーがなんか言ってる。お互いに作業しつつ会話。
「ねーヤングさん、俺思ったんすけどー」
「んー?」
「都内にいる若くて可愛い女って、70%以上はキャバ嬢経験ありなんじゃないっすかねえ?」
「あー言えてるかもー」
相変わらずタッキーはバカだなあ。そして俺もバカ。こんな奴らの作ったシステム使う奴もバカなら、給料払ってる会社もバカ。この世にはバカが溢れてる。なんて素晴らしき世界。この国は今日も平和。
「…お疲れさまです」
なんだオリベたん今頃出社か、4時回ってるよ。つーか髪の毛が昨日と比べて異様に長くなってる。ヅラ? なんだってこの娘は休日出勤にこんなお洒落してんだろ。
そして3人は黙々と作業、していたんだけど、あれ、俺だけなんかな? たまに変な音が聞こえるのは。
「ねーあのさー」
「なんですか?」とタッキーとオリベたんがこっちを向いた。
「さっきからたまに、天井で変な音しない? なんかピンポン玉が跳ねてるような…」
「…聞こえます」とオリベたん。
「えー聞こえないっすよ」とタッキー。
そういえば今日だけじゃない。普段平日に仕事してるときは聞こえないんだけど、人が少なくて静かな休日に出勤したときだけ、今までもこんな音を聞いたことがあった。でもこのフロアは最上階、この上に階はない。誰かが上にいることは考えられないのに。
「なんだろ? お化けかな?」
「…それはピンポンです」
「オリベたん知ってるの? なんなのそれ?」
「…だいじょうぶです。ピンポンは人に害を与えません、たぶん」
コツーン コーン コン コンコンコン コココココ…
そのとき、また音がした。確かに聞こえた。ピンポン玉が跳ねる音。なんか怖えなあ。ところがタッキーはまだ聞こえないなんて言ってる。なんでだ。本当のバカには聞こえないのかな?
「…あたし今日は乗らないのでもう帰ります」
わあ。4時に来て5時に帰ろうとしてるよこの娘。なんだか俺もやる気しないや。じゃあ俺も帰ろうかな。タッキーはまだやるのかな?
「俺はもうちょっと頑張ります」
「…ピンポンに気をつけてくださいね」
「あはは! 俺にはそんな音聞こえないんで」
タッキーをひとり職場に残し、オリベたんと駅へ向かう。あーなんか腹減ったなあ。そうだー寿司でも食い行っかー?
「ねえ、オリベたんは寿司では何が好きなの?」
「…おいなりさん」
そのとき俺の携帯が鳴り出した。タッキーからだ。もう終わるなら一緒に寿司に誘おうと思って、出た。
「もしもしヤングさん!? 今、目の前に! いてっ! いたい! 助けてください! ガンガンスマッシュ打たれてるんで! ぎゃっ! うわっ プツ ツーツーツー…」
オリベたんが僕を見て微笑みながら言った。
「…ピンポンは寂しいだけなんです」