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随分昔に職場が一緒だった友達と焼肉食ったんだけど、相変わらずものすごくつまらない冗談をたくさん言うので、とてもうんざりした。たまには人の顔色ってもんを伺ったほうがいいんじゃないかな。そしたら俺がほんとに困ってるってのがわかると思うし、そんな俺に向かって「もー、ボケてんだからちゃんとつっこんでくれなきゃ!」なんて言えるはすがないんだよ。
そういや去年会ったとき、会社辞めるって言ってたけど、辞めた? あ、やっぱり。辞めてないんだ。でもそのうち辞めるんだ? いつ辞めるかはまだ決めてないわけね。んじゃさあ、辞めてなにするの? なんかやりたいことあんの?
「…法律関係」
これにはほんとびっくりしたよ。だって噂じゃ昔と変わらず、今の仕事もろくにこなせてない、もう30越えてるこの子っつうかおっさんが、こりゃあまた大きく出たものだなと。え、なに、弁護士にでもなるつもりなの?
「いや、だから、弁護士っていうか法律関係」
だから法律関係の何になるんだよ。って思ったけど言わないよ。人がなんか始めようってときに、それにケチつける気なんて俺にはないよ。えーとじゃあ、どっか学校通うの? でも暮らしていくためにはバイトとかやらなきゃだよね?
「うーん、そのへん、どうしたらいいか考えてるんだけど、どうしたらいいかわかる?」
お・れ・に・聞・く・な。あのさーまさか、今日会ってから話したこと、全てが冗談なのかなあ? だったらいいんだけど。むしろそうであってほしいと今は願ってるんだけど。あーつうかさ、なんでその、君の言ういわゆる法律関係の仕事っていうのをやりたいって思ったの?
「それはやっぱり、こんな世の中だから、社会正義のために」
うーん、ぶちたくなってきた。こいつはかなり手ごわいぞ。それは確かに立派な考えだと思いますよ。それはいいんだけどさ、そう思ってんだったらさ、その理想へと少しずつでも近づく為の努力みたいなもんをね、うん、じゃあまず手始めに、そのみっともなく飛び出してる数本の鼻毛を切ってみることから始めよっか?
いやーしかし、追加でサワー注文しようとして、何回か店員呼ぶけど気付いてもらえなくて、それで結局諦めちゃうこの子っつうかおっさんに、なにかができるとはとても思えないんだ。