まったく美容師ってやつはなんだって、いつもいつもこんなにも俺を苦しめるのか。電話で予約しようとしたら、いつもの担当の人がいないって。それは別にいい。いつもの人も特にいいと思ってない。だから誰でもいいですよ。でも初めての人にこうしてくれって説明すんの、面倒臭い。

で現れた別の人は、顎の下の髭に剃り残しがあり、その飛び出てる長い毛数本が俺の不安材料だが、まあとにかく頼みますよ。この雑誌のこの人みたいにしてくれたらいいって。確かに言った。言ったはず。なのにさあ、どうよ。こんな感じでどうでしょうって言われても、さっきあなたが切って落ちた俺のあの髪を、元に戻してくれって願いは、どうせ聞いてくれないんでしょ?

だから! 俺は!あの写真みたいにしてって…これ違うじゃない。ぜんぜん違うよ。その自信満々の顔はなんだ。なに考えてんだ。どういう教育を受けたんだ。好きな映画はなんだ。あーもういいから、偉い人を呼んでくれ。そしてその人の髪を俺に切らせろ。俺の人生をめちゃめちゃにした償いをしろ。お尻の穴にくちづけろ。

なんてこと言えるはずもなく。まあ気が小さいってのもあるけど、髪型を変にされた文句を言うのってつらいと思う。だって出された料理がまずいとかならさあ、なにこれ! まずいよ! って言えそうだ。でもこの場合は、まずいのは自分の頭なんだもの。こんなにしやがって! ってその酷いことになってるのが、自分の頭。そんな変なもんを乗っけて怒ってる自分。そんなの晒し者だよ。

じゃあセットしますねって言われて、曖昧な笑顔でお願いする俺。ほんとはそんなの振り払って、走っておうち帰りたい。