「すごい空っすね」とイダくんが言うが、そんな場合じゃないだろう、講習中だよ、前を見ろ。新しいプログラム言語、ちゃんと憶えて、あとで俺に教えろよ。なにしろこっちは、眠くてたまらない。教官の言葉が、耳に入らない。

一生勉強だーよ。それは学校を出ても、中年になってもついてまわる。世知辛い世の中だぜまったく。あーあー楽がしたいもんだ。

ロビーにて喫煙しながら、やっと終わった講習のテキストを眺めていると、「それにしてもすごい空っすね」としつこいイダくん。そうか、そうなの? そんなにすごいの? 12階からガラス越しに外を見た。

世界の色がいつもと違ってたよ。

見馴れたはずの景色が今日はまるで、絵葉書で見た異国のように極彩色に輝いていて、思わず見惚れ、立ち尽くした。

このところずっと続いていた憂鬱という問いの答えを突き付きつけられたようで、あーもうなんだか、万事が問題無くどうでもいい。グチグチ考えてる奴は馬鹿だな。今なら全てを許せる気がする。

まあ止まない雨は無いように、沈まない太陽も無いわけで、夜が来て、脂ぎった顔で家へ帰る頃には、さっき感じた、気がするってのも気がしただけで、許せないもんは絶対許せないという思考へと、やっぱり戻ってきちゃうのよね。

そして気晴らしのバットをしごき、問題を抱えて眠るのでした。