春の訪れと共に巻き起こる風。その暴力的な強風のもたらす甚大な被害は深刻な大問題。

そよ風のいたずらなんてかわいいもんじゃない。スカートめくれてパンツ見えたからって、それがなんだってんだ。もっと見られちゃいけない大事なものを、ただひたすらに隠し通し耐え忍び生きる者達の気持ちが、君にわかるかい?

彼らにとって最も深刻な、ヘアースタイルの大ピンチ。もはやSFXとも言えるその巧妙なスタイリングの下に隠された秘密の場所、一番デリケートな部分が剥き出しにされる恐怖。

乱暴なビル風に強奪され、吹き上げられ、超高層ビルの谷間に舞い上がり、乱れ飛ぶ、幾千ものヅラ、ヅラ、ヅラ、東京上空。詩的と言うには余りに哀し過ぎるその光景、空を見上げ必死に追い掛け走り回る。

落ちてきたところに跳びつき掴み、転がりながら慈しむように頭皮でその肌触りを確かめた男が、悲痛な表情で呟いた。
「違う。俺のじゃない」
投げ捨てられた毛のかたまり、それを目掛け群がる被害者達。

混乱を極めた特殊な群集の中で誓う。俺はあの風を絶対に許さない…!