やっぱり頭痛い。左側頭部が、まるで呪いのインカムでも着けてるかのように痛いんじゃー。なんだよこの症状。AD病か? あ、でもそういえば、過去に親知らずが痛んだときもこんなだったじゃないか。つーことで歯医者行ってみた。

ところが歯医者には、特にそれほど痛くなるような原因は見当たらないって言われちゃって、あ、そうですか、じゃああっしはそろそろ…って逃げようとしたんだけど、先生ったら酷いこと言うの。アタイの口の中ってば酷いことになってて、この溜りに溜った歯石を取らないと恐らく近い将来にとんでもないことが起こるだろうなんて予言めいたことをのたまった上で、私としては沈んでいく船をこのまま見過ごすことはできないとかなんとか、そんな御託はいらねえよ。わかったからさっさと殺せ!

それからのことは思い出したくもない。あのときほど俺は自分がマゾだったらよかったと思ったことはないよ。なにしろ痛すぎる。さっきまで頭痛がどうとかあの程度の痛みで言ってた自分は間違ってました。クーラーの室外機の前に正座して謝ります。どのくらい痛いかって、俺の体から神経の線をスルーっと抜き出して、それ使って下手糞なダブルダッチやられてる感じ、って言えばわかってもらえるかな?

この地獄の季節を乗り越えるために、なんか楽しいこと考えようって浮かんできたのがミッキーマウスだったことで、このときの俺の余裕のなさがうかがえます。わあいミッキーさぁん。あとねえ、プーさんも出てきたんだあ。余談だがうちの母はミッキーマウスとミニーマウスのことをミッキーくんとミッキーちゃんと呼ぶ。うふふ…

32歳なのに、歯をいじられ頬を伝う一筋の涙。人前で痛さで泣いたのなんて何年ぶりだろう。あたりまえに口の訊けない俺に向かい、終始楽しげに語りかけながら作業していたマッドサイエンティストのおばさんが、敗北感に打ちのめされながらうがいをする俺に「今まで20年やってきて、こんなに硬い歯石は初めてでした」なんて言うので、「じゃあ今日は記念日ですね…」と返しても、俺の被害者意識は拭えない。

見も心もズタボロ、おまけに夢まで見失って、はだしで病院を出て、ふと我に返って気付く。やっぱり頭痛い。