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昔、工場でバイトしてたときのこと。自分の持ち場が変わって新しく行った場所で、近くで作業する女の人とよく話すようになった。そしてこんなことを言われた。
「私、今まで君の顔だけは知ってて、心の中で『もやしくん』て呼んでたよー」
そう、顔はよく見るけど名前は知らない他人に対して、人は頭の中で勝手に呼び名を付けたりしてる。それもだいたい、見たまんまの印象で。呼び名まではいかなくとも、自分が知らない人達からどんな風に見られてるかと考えると、ちょっと怖い。
「えーとさ、となりのチームにさ、ハゲてる人いるじゃん?」
「あーはいはい」
ハゲとかデブとかは特徴として大きいから、もうこれだけで通じちゃう。でも君がハゲやデブでなくとも、自分の知らないとこで他人になんて思われてるかなんてわかったもんじゃないよ。
「あのコンビニの女の子でさ」
「うん」
「いつもマスカラがダマになってる子いるじゃん?」
「うん」
「向こうのフロアの、スカートに必ずスリット入ってる人」
「ああ」
「喫煙室によくいる彼さー」
「あー便所サンダルの彼ね」
「下の階のキャバスケ」
「おう」
「クソみたいなサイトやってる奴」
「え、えーと、ぼくわかんない」