うちの近くの公園で、手品の練習してる二人がいたんだよ。三十歳くらいのジャージ姿の男女で、たぶん夫婦じゃないのかな。手品っていってもけっこう大掛かりなやつでね、ロッカーみたいな箱に人が入って、三つに分かれてる扉閉めて、顔と片足だけ見えるようにして、そこで仕切りの板を二箇所に刺し込む手品あるじゃん。そのままお腹の部分もずらしちゃうやつ。あれをやろうとしてたみたいなんだな。でも準備の様子を見てると、どうにも素人臭かったから、忘年会かなんかで初めて披露する、その練習をしてたんだと思うよ。

やがてジャンケンして負けた旦那のほうが箱の中に入ってね、奥さんが扉を閉め、仕切り板をグイッと刺し込んだらさ、旦那が「いてえ!」って叫んで、奥さん「あれー?」だって。

「おかしいなあ」って奥さんが取説みたいなの見直して、気を取り直してもう一回。仕切りをグイッと。旦那が「イデデデ! イデデ!」って。それでも奥さんやめないでグイグイ押してて。旦那が「ほんとマジでやめろ!」って。やっと奥さんが刺すのやめた。

「だから俺入るのやだったんだよー」とか言ってる。それでも奥さんが「今度こそ大丈夫」って言うもんだから、もう一回。はい刺したー。「イデデデデデ!」 それでもグイグイ。 「イデ! いてーよ!」 「もう! ちょっとくらい我慢しなさいよ!」

わー手品って我慢かあ。