鼻を突く強烈なニオイが襲ってきて、僕はくしゃみが止まらない。隣のナカガワくんは引き出しからマスクを取り出して装着した。職場で発生した突然の異臭に僕らは顔を見合わせ、恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る。…ああ、やっぱり、カシワバラさんか。

なんかでっかいスプレーを足に吹きつけてんすけど。まさかあれって消臭か? しかしかわいくないスプレー缶だなあ。それも自分の席に座ったまま使うだなんて、ただいま私は足が臭くなってるのを誤魔化してございますって、みんなにお知らせしてるようなもんだよな。まったくこの人はどこまでも自由だなあ。

僕とナカガワくんは二人でコソコソと会話した。
「まあこれで足のニオイは完全に感じないですけど…」
「頼むからトイレ行ってやってくんないかな…」
「なんかこのスプレーのニオイ、どっかで嗅いだことあるんですよね…」
「あー、あれかな? お母さんが使ってたケープ、あれを強烈にしたような…」
「あーそっか、言われてみると、なんとなく懐かしいような。うちも鏡台の前に確かあった…」
今度の連休は実家に帰ろうかな。