でもゴルフって結構いいよ。派手なケガをすることもないし、体もそんなにきつくないし、なにしろたった独りで本番さながらの練習ができるからね。だから打ちっぱなしってのは、友達のいないおっさんにとっては、うってつけの娯楽ってわけだ! 俺も週末行ってきたーん。

こうして練習場では、おっさん各自が独りで黙々と打ちっぱなしてるんだけど、実は割と、周りにいる他の人達のことを気にしてるんだよ、お互いね。まあ会社では椅子を奪われ、家庭ではチャンネル権を奪われ、ポン引きに騙されて入った店では財布の中身全部と人間の尊厳まで奪われ、歩道橋の上でくたびれたワイシャツの胸ポケットから取り出したタバコの箱にも嫌味を言われるお父さんの、最後のプライドがかかってるからね、ゴルフには。

ところが俺なんかすげー下手だから、多少でも誰かから見られてると思うと、焦ってますます駄目になる。でもたまたまこの日、握ったドライバーのひと振り目、すごくいい音がして球がまっすぐナイスショット。おーまぐれにしてもこれは素晴らしい。すると今まで隣で短いアイアンでその辺にちょこんと飛ばしてたおっさんが、急にドライバーを取り出したかと思うと、打ったねーすごいの。俺の球の遥か向こうまで飛ばしちゃって、そのまま打席からはずれて後ろの椅子に腰掛け、タバコぷっかー。

なんすかこの流れ。次がものすごく打ちづらいよこれ。見てないふりしてどうせ見てるんでしょ。勝手に勝負始めてるでしょ。あーもう勘弁してくれよ。ちくしょー見てろよ、と力んで振ったらクラブがブーン、スカッ、球コローン…。記録、50センチ。

いっせいに周りのおっさんが5、6人こけた。