引っ越し先を探しててね、気にいった部屋をみつけたのさ。けっこういいとこでね、大きな窓があって、たくさん光が入るんだ。鉄格子はついてない。看守もいないよ。あとは部屋の真ん中にいる毛むくじゃらの臭いのが、いなくなってくれたらって思うけど、そこまで望むのは贅沢かもね。

不動産屋で入居の申し込みを済ませ、いま住んでる街に戻ってうちまで帰る途中、もうこの街ともお別れなんだと思って悲しくなった。この道をシャドーボクシングしながら走るのもあとわずかなんだな。シュッ。落ちてくる木の葉を拳で打った。

そのときふいに気付いたのが、あの新しい部屋には、洗面台がなかったってこと! あれ、見落としてた。そういやなかった、洗面台。ええーどうしよう。そりゃ確かに古そうな部屋だったけど、じい、教えて? パンがなければパンストを食べればいいじゃない? でも洗面台がなかったらどうすればいいの!?

やっぱり台所の流しで、歯を磨いたり顔を洗ったりするんかなあ。なんかちょっといやだよ。男だって綺麗になりたいのに! 俺、33歳にもなって、生活がランクダウン。