風の強い日が憎いんだ。あの手この手を駆使してきっちりと仕上げたせっかくの髪型なのに。通勤時、いちばんの難関は会社の手前のでかいビル。だいたいここの前を通り抜けたあとで、やっとその日の髪型が決定されるのだ。

しかし今日は特にひどかった。その風速もさることながら、前、左、後ろ、右と、順番に襲い来る攻撃に、こてんぱんにやられたよ。なにこの切り替え。試運転かよ。全部乗せなんて頼んでないよ。いやーまったく飽きさせないわ。これがアトラクションなら成功だけど、俺はドライヤー使わない派だぞ!

ほーらこれ、この頭、ほんとにどうしてくれんだよ。イッツアワンダフル地肌。見えちゃってんじゃないですか。見せる下着があってもなあ、見せれないもんだってあるんだよ。風呂場を覗かれたとき、胸を隠すのと股間を隠すの、どっちが処女だとか言ってる場合じゃなくて、頭を隠す人の気持ちを考えたことがあるのかよ!

そんな最悪の気分で歩いていたら、目の前にひとりの少女が立っていた。

「おじさん、1万円でどう?」


日本今ばなし 『北風と少女』 おしまい