あるチェーンの喫茶店に入ったら、全面喫煙OKなので驚いた。店内はほぼ満席でみんな煙草吸ってんの。よう、ろくでなしども! 俺も一服するわ。

まあ、そうだよ。ひとつのフロアの中で分煙とか、ちょっと無理あるでしょ。禁煙と喫煙の境目の辺りの席なんか、緊張感漂ってる気がするよ。だからもう店ごとに分けちゃったほうがいい。いや、もういっそ区とか市で分けるとかね。みんな自分の好きなほうに住めばいい。そしたら喫煙者と嫌煙者で行われている血みどろの争いもなくなるでしょ。そんで平均寿命はどっちが長くなるか、調べてみたらいいんじゃない?

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亮太はいつものように犬を連れ散歩へ出かける。
夕暮れどき、河原の土手の上に立ち、川の向こう側に目を凝らす。
立ち込める白い煙によって輪郭がぼやけた喫煙区の街を見る。
ワォーン!
犬が吠えた。2年前にいなくなったお父さんが買ってくれた犬だ。
お父さんはあそこにいるのだろうか。一度、お母さんに訊ねてみたが、答えてはくれなかった。
「行こう、スモーキー」
いつまでも動こうとしない犬を無理に引っ張って、亮太は家へ帰るのだった。