運命

あのベートーヴェンの有名な曲で『運命』ってのがあるでしょ。これは正式な名前ではないんだけど、この曲の通称が『運命』となった由来ってのがあって。冒頭の「ダダダダーン」が何を意味するのかと弟子が訊ねたら、ベートーヴェンは「このように運命は扉をたたく」と答えたんだって。

いやー、まず、なんなんすかこの弟子。なにその質問。冒頭の音の意味って。なんでも理屈で考えようとするのがこの子のよくないとこだよ。何にでも答えがあると思うなよ。ベートーヴェンもこんなこと訊かれて、とっさにたまたまうまいこと言えたからよかったけど、内心穏やかじゃなかったと思う。俺がベートーヴェンだったらただじゃおかないよ。こいつを側に置くのは危険だから、どっかすごい遠くの街までソーセージ買いに行かせちゃう、ラートで。こういう奴が悪気ゼロでナチュラルに師匠の足を引っ張るんだよ。まったく恐ろしい。

まあしかし、この逸話は嘘だろうけどね。いい話好きの誰かが作った感じがすごいする。弟子とか取り巻きはすぐ伝説をねつ造するから信用できないんだ。だいたい運命に「ダダダダーン」なんて勢いで扉を叩かれたら嫌だよ。俺なら居留守使うよ。それにもし仮に、ベートーヴェンが本当にこういうふうに答えたとして、それが広まったら、そっからしばらくは近所の小学生が黙っちゃいないでしょ。「ダダダダーン!」って玄関の扉叩かれまくりだろ。ベートーヴェンだってそんなのはごめんだよ。

この件に関する僕の意見は以上。では次の質問は?