電車の椅子に腰掛けてたら、目の前にいい脚があったんだ。だからついそのまま視線を上になぞったら、なんか見覚えのある顔で、そうだ確か、かなり昔に行ってたキャバクラの娘だよ。

「もう店辞めるー」とか言ってて見なくなって、しばらくして俺が仕事終わる頃に電話かかってきて、一緒に晩飯行ったなあ。安い焼肉屋連れてったら「なにこの肉、ゴムみたい」って言ってた。その後なぜか辞めたはずの店に連れてかれて、「あ、今日から復帰したんだ」って、ひでー。なにこれ、同伴てことになってます? 18:30のキャバクラ、他に客ぜんぜんいねーの。ひでー。

そんなこと思い出して、チラチラと顔を見てたんだけど、どうせ覚えてないんだろうな。そういや貸したままになってる夢野久作の、「漢字ばっかで難しいから、今お母さんが読んでる」って言ってたあの本、返してほしかったけど、ここで声かけたら嫌な顔されんのはわかってるし、だいたいこの娘の源氏名だって思い出せないんだ。